デザイナーはスクラムチームの中にどのように入るのか?
デザインは1つ前のスプリントで行うのか、それとも同じスプリントで行うのか。
面白そうな記事を見つけたので、記事を書いたDinaに許諾をもらい翻訳して公開します。元の記事
数年前、当時勤めていたコンサルタント会社の同僚と、スクラムマスターのコースに参加する機会を与えられました。その会社はとても小さく、私のオフィスには20人ほどしかおらず、UXデザイナーも2人しかいませんでした。先生は20年の経験を持つ素晴らしい方で、私たち全員が何年もスクラムチームで働いているにもかかわらず、たくさんのことを教えてくれました。
ランチの直前に、UX・UIデザイナーがスクラムチームの中にどのように入るのかを話し合いました。役割や、チームに参加させるのが良いかどうか、UXとUIデザインをどのようにスプリントに盛り込むかについて議論しました。私の同僚のUXデザイナーは、UXデザイナーは、次のスプリントのためにストーリーをリサーチし、デザインするために、一歩先を行く必要があると言いました。すると先生は、その考え方は間違っていますよ、ジョシュ・セイデン(Josh Seiden)とジェフ・ゴセルフ(Jeff Gothelf)の『Sense and Respond』¹を読む必要がありますねと言いました。
私はとても気になって、すぐにこの本を手に入れることにしました。というのも、私の経験でもリサーチとデザインは前もって行い、次のスプリント計画を立てる前に終わらせる必要があったからです。もっと違ったやり方があるのではないか? 私たちがやっていた方法は必ずしも最適ではありませんでした。最大の問題は、数週間かけてリサーチとデザインをした機能の優先順位が下げられてしまうことでした。そして、スプリントに組み込まれたときには、デザインは時代遅れになっていました。時にはスプリントに組み込まれないこともあります。つまり、実装されなかったものを数週間かけて設計したことになります。こういったことは、どこでも常に起こることで、実際たいしたことではないということはわかっています。でも、もっと違ったやり方があるのではないでしょうか?
従来のデザインプロセス — ウォーターフォールモデル
『Sense and Respond』を見ていく前に、従来のデザインプロセスを見てみましょう。ソフトウェア開発におけるアジャイルな作業方法が一般的になる前は、ウォーターフォールモデルが使われていました。ウォーターフォールモデルとは、プロジェクトの活動が直線的で連続したフェーズに分解されたもので、各フェーズは専門性があり、前のフェーズの成果物に依存しています。社内の人たちは、異なる部門で働き、共同して働くことはありません。異なる部門は、社内のサイロと見なされています。
上の画像のようになります。設計はすべてソフトウェア開発の前に行われます。これは、ソフトウェア開発が始まる前に設計が終了していることを意味しており、通常、変更する余地はあまりありません。
ウォーターフォールモデルでは、デザイナーは通常、デザイン思考プロセスの5つのステージに従います。「共感」「問題定義」「発想」「プロトタイプ」「テスト」。ここでは詳しく説明しませんが、Interaction design foundationの記事に『5 Stages in the Design Thinking Process』という素晴らしい記事がありますので、そちらをご覧ください。
アジャイルでのやり方
逆に、アジャイルチームでは、さまざまな職種の人が混在しています。開発者、テスター、デザイナー。また、顧客に価値を提供する責任を負うプロダクトオーナーがいます。そして、すべてのスクラムプラクティスを促進するスクラムマスターがいます。
従来のデザインに比べ、チーム内のビジュアルデザイナーやUXデザイナーは、例えば、他のチームメンバーが待っている間に全く新しいWebサイトをデザインすることはできません。デザイン、ソフトウェア開発、テストを同時に行う必要があります。しかし、ビジュアルデザイナーやUXデザイナーとして、ソフトウェア開発者がコーディングしている間に、同じ部分をデザインすることはできません。デザインは開発の前に行う必要があります。それはどのくらい前に行うのでしょうか?これについては、冒頭にも書いていますが、様々な意見があります。
ここでは、2つの方法を説明します。デザイナーが1スプリント前で作業する場合と、「Sense and Respond」といって、機能の設計と開発を同じスプリント内で行う場合です。
1つ前のスプリントで行う
UXデザイナーとUIデザイナーは、1スプリント前に作業を行い、実際に機能を開発するスプリントの前に、レイアウトとユーザーフローの最終決定を行います。最終的なテーマとデザインは、開発と同じスプリントで用意することができます。そのため、チームは2つのスプリントを計画する必要があります。スクラムチームは2つの異なるスプリントボードを持つようになります。1つはデザイン用、もう1つは開発用です。あるいは、チームは1つのボードを共有し、1つをデザインの列にすることもできます。
私の経験では、これが最も一般的な方法だと思います。良い方法ではありますが、冒頭で述べたように、スプリント計画に入れるのが難しい場合もあります。その場合は、機能を開発しようとする頃にはデザインは時代遅れになってしまうでしょう。
Sense and Respond(感じて、反応する)
『Sense and Respons』は、『Lean UX』²の著者であるジョシュ・セイデンとジェフ・ゴセルフによって書かれました。この本の基本原則は、ジョシュとジェフが言うところの「市場との双方向の対話」を企業が行う必要があるということです。企業は新しいことを試し、消費者の反応から学び、素早く計画を調整する必要があります。Sense and Respons(感じて、反応する)
また、アジャイルチームはデリバリーよりも学習を優先する必要があると、彼らは書いています。つまり、ユーザーや顧客との継続的なコミュニケーションと、継続的なデリバリーにより、小さなフィードバックループを行う必要があるのです。例えば、Amazonは 11.6 秒ごとに新しいソフトウェアをリリースしていると著者は書いています。
「まず、お客様との対話をすることから始めましょう。そうすれば、最初に学習することができ、後から洗練してデリバリーすることができます。(中略)学習しないと、誰も価値を見いだせないプロダクトやサービスをデリバリーしてしまう危険性があります」。
対話を始める方法の一つとして、チーム内で次のような質問をすることがあります。
- 最初に学ばなければならない最も重要なことや事柄は何か?
- 最も早く、最も効果的な方法は何か?
なぜなら、自分が間違っていたことに気づくのは早い方が良いからです。
「Sense and Respond」に基づいて作業するには、チームが緊密に協力する必要があります。これは通常、チーム全員が開発プロセスのさまざまな部分をお互いに手伝うことを意味しています。チーム全体が、リサーチ、デザイン、プロトタイプのテスト、MVPの開発などをサポートします。チームのデザイナーとして、あなたはデザインに責任を持ちますが、チームメイトはアイデアであなたを助けることができます。デザイナーはコードを書くことはありませんが、何か関連することを手伝うことができます。リリースノートを書いたり、質問に対する答えを見つけたり、コードを書かなくても良い問題を解決します。
ここで魔法が起こるのです。「Sense and Respond」に基づいて仕事をすると、チームは通常では考えられない方法で創造し生産することができたのです。³ 私は、この働き方を導入しようとしたチームと何度か仕事をしたことがありますが、組織内のマネージャーのサポートがなければ、それを貫くことは非常に困難でした。組織全体でのコミットメントが必要なのです。
結論から言うと 「Sense and Respond」の方法論で仕事をすることは素晴らしいことですが、組織全体がコミットすることが必要でした。1つのチームが単独でそれを行うのはかなり難しいです。1つのスプリントを先に進めるのは良いことですが、それが1つのスプリントだけであることを確認し、数ヶ月先のデザインをしないようにしてください。さもないと、開発される頃には時代遅れになっている機能をデザインすることになり、時間を無駄にする危険性があります。
[1]: 2017 Harvard Business Review Press 『Sense and Respond: How Successful Organizations Listen to Customers and Create New Products Continuously』 著 Jeff Gothelf , Josh Seiden
[2]: 2017 オライリージャパン 『Lean UX 第2版 ―アジャイルなチームによるプロダクト開発 (THE LEAN SERIES)』著 ジェフ・ゴーセルフ,ジョシュ・セイデン 監修 坂田 一倫 編集 エリック・リース 翻訳 児島 修
[3]: 著者のDinaにどんな魔法が起きたのか聞いて加筆しています
最後に
プロダクトのインクリメントを完成させるのにUX、UIデザインが必要なのであれば、機能横断的なチームにUXデザイナーやUIデザイナーを含めるのが自然です。しかし、様々な現場で試行錯誤され、苦労している話もよく聞きます。このブログが、みなさんの現場で少しでも役に立てたら幸いです。
以下も参考になれば
- 2012 Publickey アジャイル開発の導入時、どうすればUXデザイナーの専門性が活かせるか?
- 2021 atama plus【アジャイル開発+UXデザイン】Lean UXをやってみて学んだ話
- 2020 CreatorZine 10年後も生き残るデザイナーの条件とは サイボウズ「kintone」開発チームからそのヒントを探る
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